全てが繋がる時に、彼らはきっとそれを知らないんだろう。その証拠に、彼らはまだ何も気付いていない。
なちにとっては15回目の梅雨が来た。なちの友達はみんな高校へ進学し、なちだけが取り残されていた。元より進学の意思は無かったため、なちは中学の時と全く変わらない生活を送っていた。少し変わったところと云えば、幸也と行動をともにすることが多くなったということくらいか。2年になっていた幸也は、妹のようななちを頬って置けなかったらしい。というか、本当になちの行動は予測ができなくて、見ている者に不安を与える存在だった。母性本能をくすぐられるというのか。突然道に飛び出して車に惹かれそうになったこともあるし、免許もないのに友達のバイクを乗り回したりして、本当に危ない。今までも、幸也がいなければ死んでいたんじゃないか、と思うことが多々あった。だから尚更幸也はなちから目を離せない。目を離したら、すぐにどこかに行ってしまう。猫みたいだ、と幸也は思った。
そんな事はつゆ知らず、なちは今日も写真を撮ろうと外へ出た。が、玄関を開けた瞬間、大粒の水滴がなちに降りかかる。なちは急いでドアを閉め、カメラにかかった水滴を拭き取った。基本的に雨の日はなちは外に出ないようにしている。雨の風景はそれはそれで綺麗なのは知っているが、濡れることが嫌いなのである。しかも今日は、どうせ外に出なければいけない。幸也の家で遊ぶ約束をしている。遊ぶといっても、なちが見たがっていたDVDが丁度幸也の家にあったので一緒に見るというだけのことだが。
迷った末、なちは結局レインコートを被って外に出た。水溜りの水が撥ねて足首にかかる。冷たい感覚に、なちは初めて幸也を見たときのことを思い出した。去年の夏の終わりだ。まさかあの時は、こんなに関係が続くとは思っていなかったけど。思い出に耽ろうとするなちに、横を通った車が水を思いっきり撥ねて顔にどろを飛ばした。なちは通り過ぎるその車に中指を立てて見せた。
「この雨の中よく来たなー」
「まあ・・・うん・・・・・」
幸也に顔のどろを拭いてもらいながら、なちはまださっきの車に怒っていた。大げさに泥が付いたおかげで、幸也の家に着くまでに数人に笑われたのだ。服で拭いて服が汚れるのは嫌だったし、どうせ雨がながしてくれるだろうと思ったからだ。だけどそんな都合よくいくはずがなく、雨で流れた泥は、結局首を伝って服の一部に染みた。幸也はドアを開けた瞬間、ぷっと吹いた。
「んじゃ、母さんとかに会う前に上行くか」
「何でおばさんに会う前になん?」
「んー、めんどくさいから」
「ふーん・・・?」
幸也の家庭環境を知らないなちは、不思議な顔をしながら2階への階段を上る。ギシ、と鳴る階段を上がりきったところで、幸也が右のドアを開けた。
「ようこそー」
「ぬいぐるみいっぱいあんねー」
「ゲーセン好きだからな」
幸也の部屋に入るのは初めてのなちは、部屋のぬいぐるみの数に驚いた。小さいのから大きいのまで、少し散らかっているように見える部屋は、実はぬいぐるみの所為だ。どこぞやの女の子の部屋みたいなかわいらしさは無いが、よくここまで取ったな、という感じはする。なちはUFOキャッチャーが苦手なので、尚更目を輝かせた。
「・・・・・・何個か持って帰るけ?」
「うん!」
元気よく、なちは答えた。
「・・・・・意外とこれ怖い・・・」
「そかー?」
「うん・・・」
「俺は何回も見てるしかなー・・・」
強く幸也の腕を掴みながらも画面をしっかりと見ているなちに、幸也は苦笑した。怖い物好きなのか、それとも嫌いなのか、どちらにしても一般的な目線から見ればそんなに怖くない映画のはずだ。けれど、なちはさっきから幸也の腕を力強く掴んで離さない。跡が残るな・・・と幸也が思いつつ欠伸をしたとき、なちが突然反応を示した。
「あれ・・・?」
「どした?」
「なんか此処、見たことある気がする・・・」
「んー?・・・・・・あれ、俺も、何か見覚えが・・・」
目を細めて画面を見る幸也の横で、なちは震えた。さっきから捕まれていた腕に爪が食い込んで幸也はなちの異変に気付いた。
「なち?」
「おかあさん・・・・・」
「え、」
「住んでた・・・此処・・・・・」
「・・・・・?」
震えがとまらないなちに、幸也はどうしていいか分からず、なちの小さな頭を撫でた。冗談などではない脅え様に、幸也は何かを思い出しかけていた。自分も覚えている、このTVに映った景色。それと、なち。幸也は、やっと思い出した。
「あ・・・・・・」
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